最高裁判所第一小法廷 昭和26年(れ)242号 判決 1951年9月27日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
弁護人布施辰治の上告趣意第一点について。
原判決判示第一の判旨は、所論前段の説示においてまず被告人下相竜の犯行目的意図を示し後段の説示と相俟って同被告人が判示暴行を加えて判示公務員等の酒税法違反被疑事件のためにする捜査を妨げたとの一個の公務執行妨害罪を認定したものであること原判文上明らかである。されば原判決には所論のような違法はなく、論旨は理由なきものである。
同第二点について。
所論原判決の事実認定は、その挙示する証拠によりこれを肯認するに難くないのである。そしてその判示事実によれば被告人が公務員の職務執行に当りこれに対して暴行を加えた者に該当すること勿論であるから、原判決には所論のような違法はなく、論旨は採用に値しない。
同第三点について。
所論被告人等の判示第二の酒税法違反の事実は、論旨の主張するように被告人等の公判廷外の自白のみによって認定されたものではなく、原判決は、その挙示する他の証拠をも綜合認定の資料に供しているのである。されば原判決は刑訴応急措置法一〇条三項に違反するところなく、また所論の憲法違反の主張はその前提を欠き採用に値しない。なお、本件は刑訴施行法二条により旧刑訴法及び刑訴応急措置法の適用を受くべきいわゆる旧法事件であるから、新刑訴三一九条の適用を云為する所論も亦採用の限りでない。
同第四点について。
濁酒の醸造量はその仕込原料の総量よりも減少することが経験則上むしろ通例なのである。されば原判決には所論のような違法はなく論旨は採用に値しない。
同第五点について。
所論長島長治作成の鑑定書によれば、右鑑定は、各被告人等の製造した判示濁酒及び焼酎の一々につき、その任意の一部をとってそのアルコール含有量を検出し、これによってそれぞれその全体の含有量を推断したものであることが認められる。かかる方法によってもその全体のアルコール含有量を推断し得ること勿論であるから、原判決が所論鑑定書の記載を証拠となしたからとて原判決に所論のような違法があるとはいい得ない。論旨は理由なきものである。
同第六点について。
所論は事実審である原審の裁量に属する刑の量定を非難するに帰し、上告適法の理由とならない。
よって旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員一致した意見である。
(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 斎藤悠輔)